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2017-07-30 (Sun) 06:45

福祉に関わる人が読んでおきたい、「明日の子供たち」

「かわいそうに」と言われることが一番嫌いです。


児童養護施設を舞台にした小説、『明日の子供たち(有川浩:著)』です。



「児童擁護施設」とは、
突然の災害・事故・離婚・病気・不適切な養育などなど、
さまざまな理由で親と住むことができなくなった子供たちが暮らす施設です。

この小説の大きなテーマは、
勝手なイメージで決めつけてしまうことの危険性です。


次のような文章がありました。

子供たちを傷つけるのは親と一緒に暮らせないことよりも、親と一緒に暮らせないことを欠損と見なす風潮だ。
子供は親を選べない。
自分ではどうにもならないことで欠損を抱えた者として腫れ物のように扱われる、そのことに子供たちは傷つくのだ。




三浦しをん氏の、『本屋さんで待ちあわせ』というエッセイにあったんですが、
その一部を紹介します。


「悲惨でかわいそう」などとステレオタイプの認識に甘んじ、彼らの生活にも笑いやたくましさが当然あることを知ろうともしなかった自分に腹が立ってきます。
無知と無関心と怠慢こそが、理解の芽を摘み、絶望と断絶を生む温床となるのだと、肝に銘じようと思いました。




人には人それぞれの事情があること。
その人たちの1日は、「かわいそう」の一言で終わるほど単純なものではないってこと。
人として当たり前にある、喜怒哀楽があり、
些細だとしても、喜びや希望につながることだってあること。
それを知った上で、適切な「じゃあ、どうするか」の行動にいくんだと。


ただ、「かわいそう」という前提を持ってしまうと、見えなくなってしまうだろうと思います。
無知と無関心と怠慢こそが、理解の芽を摘み、絶望と断絶を生む温床となるのだ。

コミュニケーションの基本でもありますよね。


重いテーマを扱う『明日の子供たち』ですが、全体としてはとても爽やかに読み進めます。
なぜなら、悪い人が1人も出てこないから。

意見の食い違いや衝突はあります。
でも、みんな自分の立場や考えがあってのことで、
決して、自分一人の得のために行動してる人がいないんです。

そこが、いい。

この重いテーマに悪い人が出てきたら、げんなりするだけだから。

みんなが、子供は自分の将来のことを、大人は子供の未来のことを、
良くなるように、それだけを願って行動していく姿は、とても爽やかで清々しかったです。


「児童養護施設」の現状などに興味のあるかたは、ぜひ読んでみてほしいなって思います。
こういった施設で働くことに、情熱を持ちすぎる人にも読んでいただきたいな。
介護施設とかもそうなんですけど、
あまりにも理想的に、「家族のように」接して、と意気込むと、
ある日突然、ポキッと心が折れて、退職してしまいます。
そのあたりの、家族のようには出来ないこと、福祉のプロとはどういうものか、
そういったことも学べると思いました。



最終更新日 : 2020-07-18