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自分の存在価値が分からなくなったら、「最果てアーケード」

2019.02.11(06:00) 709

十三文字が仲良く手をつないで、
十分の一の役目をしっかり担ってる。



どんなにちっぽけな存在としか思えなくても、役割があると信じさせてくれる。
退屈な小説(笑)、『最果てアーケード(小川洋子:著)』を紹介します。


最果てアーケード (講談社文庫) [ 小川洋子(小説家) ]


世界でいちばん小さなアーケードを舞台に静かな人たちの姿を描く短編集です。
商店街、って言えるところですね。
すごいお店が並んでいますよ。

義眼屋。
遺髪レース屋。

小さなアーケードは、失った悲しみを持つ人たちが訪れる場所です。


関係ありませんが、私のふるさとには「メルシィ街」という商店街があります。
ええ、メルヘンチックな人たちが訪れる場所なのです。

まあ、それはいいですね。


短編集の中の一遍『百科事典少女』のセリフが素敵です。
アーケードには「読書休憩室」があり、そこに置いてある百科事典を愛している少女がいます。



「この世界では、し、ではじまる物事が一番多いの。
し、が世界の多くの部分を背負ってるの。
この、釣り針みたいな頼りない一文字が、実はひそかに一生懸命がんばってくれているんだよ。
いいえ、自分は大して何の役にも立ってはおりません、みたいな顔をしてね」

労をねぎらうように、彼女は第5巻の背表紙の[し]を撫でた。

「でもね、だからと言って他の文字をないがしろにしているわけじゃないの。
第10巻。栄光の最終巻。[むめもやゆろらりるれろわん]。
む、から、ん、まで全部で十三文字だよ。
十三文字が仲良く手をつないで、十分の一の役目をしっかり担ってる。
それが、し、と比べて劣る役目だとは、私は少しも思わないよ」





ウチに百科事典はないので、国語辞典はどうかなと見てみました。
背表紙、の反対側だから腹表紙(?)にあ、から、わ、まで四角い印が印刷されています。

一番多いのが、か行。僅差で2位がさ行。
言葉が多そうな、あ行は意外や意外、3位です。
た行、は行が少し少なめで4位同時。

そこからぐっと減って、な行、ま行、や行、ら行、わ行。
わ行の印なんてほとんで見えないくらい細いです。

どの言葉も、今を生きる日本人がコミュニケーションに使ったり、
自分の思いを見える形にしたりしているもの。
なくてはならないもの。
なくていいものは、辞書には載らないのです。


もちろん、人も同じなんだよ、というと、
「要らない人間、悪質な人間もいるじゃない」なんて思ってしまったり。

しかし、
国語辞典の最後を飾る言葉はですね。


「―ん坊」
[おもに人をさすことばについて]けいべつして、あるいは、からかってよぶことば。
けちん坊
おこりん坊



こう書かれているのです。
偶然にしてはよくできてませんか。

甘えん坊
食いしん坊
暴れん坊
いばりん坊
寝坊


「まったく・・・!どうしようもないんだから」
なんて言われていそうな人たちが、辞書を締めくくってくれるのでした。


「役割がある」のと、「役立つ」は別モノ。
すべての生物は、役立つかどうかで存在価値が決まるんじゃなく、
役割があるから存在価値があるのです。




最果てアーケード (講談社文庫) [ 小川 洋子 ]


退屈な小説、とは、静かな幸せが流れている小説のことです。






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コメント
中島みゆき「地上の星」ですね。空に輝く星だけが星ではないです。言葉の数がすくない頭文字たち、名声を浴びることのない一般の人たち。頭文字たちは、あるがままにあるだけ。ところが、人間社会には、それが価値がないと思う傾向が多少なりともあるのが事実です。役割という観点から、その存在価値を再認識するのは、とても良いことですね。勇者と大魔王しかない物語なんて、逆に何の価値もないのですからね^^
【2019/02/11 10:52】 | 八咫烏(全力稼働中) #- | [edit]
Google先生が活躍するようになって辞書を引っ張り出すことがないせいか、
しで始まる言葉が一番多い、と言われると検索にひっかかったワード数で確認するしかないんですよね。
適当に、あ、か、しで引いたら確かにしが多かった。860,000,000件で。
なんか納得してしまいましたw満足だ。
【2019/02/11 11:09】 | てかと #- | [edit]
>退屈な小説、とは、静かな幸せが流れている小説のことです。

これこれ。この退屈な小説形態が好きですねえ。
読み終えたくない小説。
これに友情風味がまぶされていると最高。(笑)
小川洋子さんのものだったら「博士の愛した数式」
とか「ミーナ乃行進」とかね。

>すべての生物は、役立つかどうかで存在価値が決まるんじゃなく、
役割があるから存在価値があるのです。

そうです、イギリスの歴史家ハロルド・ニコルソンの言葉、
「つまらない人間というものは、千人に一人ぐらいしかいないものだ。
ところが、そういう人間はおもしろいんだ。千人に一人しかいないんだからね」
【2019/02/11 17:12】 | エリアンダー #- | [edit]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
【2019/02/11 18:09】 | # | [edit]
深いなぁ。
役に立たない人間なんていないんですよね。
自分が役に立つ人間かわからないけど
私にも役割があると思ってがんばろ~(*^▽^*)
【2019/02/11 20:22】 | ふたごパンダ #- | [edit]
「稽古とプラリネ」紹介ありがとうございます。
Amazonは未だ書評なしで、読書メーターには
いくつか載っています。
「アラサー女性には思い当たるフシ」
「独特の空気感」
「共感できるところと意味不明のところ」
「意外とヘビーな内容」
とかありました。
ラスト30ページが分かりにくいとか。
それは困りますねえ、私、ラスト重視派なもんで。(笑)
本屋で手に取ってチェックします。
【2019/02/12 17:26】 | エリアンダー #- | [edit]
また出てきてしまいました。(笑)

「しずかな日々」
これぞ退屈な小説、大好きです。
しずかな一夏の日々、少年時代を思い出し
涙が溢れました。
私の好きなベスト50冊に入れるぐらい感動した本です。
https://elleander.blog.fc2.com/blog-entry-4345.html
【2019/02/12 21:44】 | エリアンダー #- | [edit]
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