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2020-08-04 (Tue) 05:11

「すごい」を「すごい」と言わずに伝える『クラシックCDの名盤』

ありがとうございます。吉報配達ブログへようこそ。
吉報を届けることができますように。


本を紹介するのに毎回苦労するのが、
「すごい」とか「面白い」としか表現できないこと。
もっと伝わる表現力が欲しいなあって思ってます。
今回紹介する本は、本来の読み方とは違うんですけれども、
本当にお手本になったし、何よりおもしろかったので。

『新版クラシックCDの名盤(宇野功芳、中野雄、福島章恭)』です。



クラシック愛好家たちが、専門家のおすすめするCDの批評を読み、
「私はアレがいいと思うな」とか、「これはないやろ」なんて
思いながら楽しむ本だと思います。

私はクラシックに詳しくないですが、
川上弘美さんの書評集を読んで、本書を読みたくなりました。

読んでみて、ただただ圧倒されました。
音楽の「すごい」「すばらしい」を、
「すごい」「すばらしい」と言わずに伝えてることに。

爽やかなサウンドが疲れた心への清涼剤だ。


これくらいなら、許容範囲っちゅーかね、わかりますよね。
もっとブッ飛んできますよ。

命を刻む時計の針が止まるのを待つかのような


厳しいまでに純潔、葬儀に捧げられる花のように純白


粋でありながら、人懐っこく、人生の哀歓さえ思わせる


遅めのテンポからリズムを地の底まで届けとばかり刻みこみ


鼻腔が、軟口蓋が、頭蓋骨が、胸郭が、魅惑の響きに共鳴するのを愉しみ、
横隔膜が、柔らかく深々と波打つ呼吸に同調するのを歓ぶのだ。


天上の花園に憩い、やがて、
悠久のゼクエンツに乗せて大いなる主を目指し上昇する。
スケルツォはビッグバンの爆発力を秘めた原子の舞であり、
フィナーレは神への忠誠。歓喜と感謝の歌だ。


クライマックスが孤高の巨人が天に両腕を差し伸べ何かを叫ぶような壮絶さ


フィナーレでは暗黒の世界を彷徨し、やがて力尽きて倒れるのだ。


放射される「愛の絶対量」


歓喜の花火に魂が踊り出す



ショスタコーヴィチの交響曲の批評は、

彼のハラワタは裂けて体外にとび出し


これはもうハラワタが裂けるなんてものじゃない。いたたまれない音楽!


ハラワタがよじれるような苦しみ


ハラワタ批評は全て宇野さん。ゾンビ映画のレビューみたい。
私が一番笑った表現は次のやつ。

一見、無愛想な中に無限の愛情を秘めた「ハイジのおじいさん」にも似ている。


モーツァルトの交響曲第36番「リンツ」を表現している文。
ハイジのおじいさんって。連想したこともないです。

読者に命令する言葉もありますよ。

「K281」の第一楽章を聴け!これはまるで魔法だ。


泣きながらこの本を閉じなさい。


ティーカップの底に数センチもの愛という砂糖の沈殿するマーラーを
堂々と飲み干せ。



本のタイトルを知らなかったら、何を表現しているのかわかりませんね。
だけど、圧倒的な熱狂が伝わってきませんか。

自分の内から外から。
地球・天地・宇宙すべてを使い果たしてまで、
音楽を言葉で表現しようとしているんです。

マンガ『のだめカンタービレ』に、
意味不明の説明をして魅力を伝える音楽評論家がいました。
「ポセイドンが」どーのこーの、「至高の羽ばたきと」なんちゃらかんちゃら。
大げさやなーと思ってましたが、リアルに存在してるんですねえ。




そして何よりも、音楽を愛してることが伝わってくるのです。
愛するものの良さを思いっきり伝えようとする言葉って、
文章でも話し言葉でも、伝染してくるんですよね。
聴いてる(読んでる)こちらまで、嬉しくなってくるような。


文章の表現に限界などないと教えてくれる、
そして愛するものについて語ることに何ら遠慮などいらないってことを
教えてくれた一冊です。


新版 クラシックCDの名盤 (文春新書)


伝えることを、あきらめてはいけないんですね。

最終更新日 : 2020-08-04