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2020-08-30 (Sun) 05:11

絆し絆される、『床屋さんへちょっと』

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前回に続いて山本幸久さんの小説。今度は長編です。
『床屋さんへちょっと(山本幸久:著)』です。




8章からなる、連作短編集のような長編小説。
主人公は、父親の会社を倒産させてしまい、
新たに就職し、定年後にのんびり暮らしていた勲さんです。

勲さんが孫とお墓の下見に行くお話から始まり、
章を経るごとに時代が遡っていきます。
そして最終章では勲さんは亡くなっており、
娘の香が孤軍奮闘するところで終わります。

熱い情熱が渦巻く、でもなく。
大事件が勃発、というのでない。

大河の流れのようにゆったりと時を描いていて、
不思議な読後感を得ることができました。

久しぶりに見た言葉がありました。

「お嬢ちゃんの涙に絆されたんですよ。決まっているでしょう」



絆された。

「ほだされた」って、「絆(きずな)」という漢字を書くんですね!
知らなかったし、そもそも「ほだされる」という言葉も久しぶり。
演歌の歌詞でしか知らないかも(なんの歌だ?)。
言葉の意味を調べてみました。

絆される(ほだされる)
 人情(・愛情)にひかされて、つい、その気になる。
 (予定外の行動をとる)

絆す(ほだす)
 つなぎとめる

せっかくなので、「絆(きずな)」の意味も調べると、

絆(きずな)
 ①動物をつなぎとめる綱 ②(肉親などの)離れにくいつながり


漢字は同じでも、意味は違っていますね。
一時期、「絆」という言葉をあまりにも見聞きしたせいか、
今は「絆」という言葉が、ちょっと、重い。
いいものであるはずが、「義務」「責任」とセットになってるみたいで。
絆という「綱」で、グルグル巻きにされてるような。


「絆す、絆される」は、自分の感情次第のところが自由でいい。
「絆」では許されなくても、
「絆す、絆される」は、「今日はちょっと絆されないなー」が
OKな感じがします。

言葉を見聞きしなくなったということは、
この心の働きもなくなってきてるんでしょうね。
惜しいなあ、なくなると……。


最終章、香は自分で立ち上げた会社が窮地に立たされています。
そんな時、父の言葉を思い出すのです。

「このさきなにが起こるかはわからない。
その不安に打ち勝つためにはいまをがんばるしかない」


おい、泣くな。笑え。笑ってくれ。
今日、いちばんおかしかったことを思いだせ。


 
義務や責任ではなく、父の姿を見て自分も仕事に打ち込む。
その香の心には、「絆」よりも、
「絆された」という言葉の方がしっくりきます。



床屋さんへちょっと (集英社文庫)


ハッピーエンドではないのに、じんわりと
「読んで良かった〜」がきました。

最終更新日 : 2020-08-30