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2020-11-25 (Wed) 05:11

『火定』奈良時代の医師も感染症に立ち向かっていた

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昨日と同じ今日、今日と同じ明日が続くと疑わず、
彼らとただ笑い合っていた三カ月前が、
何十年も遠い過去の如く思われる。
あの平穏な日々は果たして、もう一度、
この国に戻ってくるのだろうか。


まるで21世紀のパンデミックとシンクロしたかのような、
奈良時代の疫病流行を題材にした小説、
『火定(澤田瞳子:著)』です。



時は奈良時代、聖武天皇が皇位に就いていたころ。
平城京で、「天然痘」が大流行し、
100万人を越える死者を出したとも言われています。

しぶしぶ施薬院(病院)勤務に就いている名代(なしろ)と、
冤罪で刑に服している医師の諸男(もろお)が主軸となり、
それぞれの視点でパンデミックに関わっていくなかで、
生きること、死ぬことに考えを深めていき、
最後は両者が絡み合っていきます。

『火定(かじょう)』とは仏教用語で、
修行者が自ら火中に身を投じて、無我の境地に入るという意味。
まさに、医療者たちの行動そのものを描いています。


とにかく天然痘の猛威がすさまじい。
人々は恐怖のどん底に突き落とされていくのです。


少し前まで、「アマビエ」という妖怪にあやかって、
アマビエのイラスト入りお札とかが流行りましたね。

あれと同じようなことが小説にも登場しています。
「常世常虫(とこよのとこむし)さま」ですって。

虫かよ!?

アホらしいなって笑えないところが怖い。
1300年以上たっても、日本人は同じことをしてますもん。
もうほんと、同じことしてる・・・。
この小説は2017年に刊行されています。
それなのにまるで3年後をわかっていたかのように
書かれているんですよねえ。


ウィルスが原因だともわからず、
治療法もなんにもわからない。
薬草だってほとんど効果がない。

現代でも医療者の感染リスクは高いけれど、
奈良時代ならば、もっとそうであったでしょう。
実際、多くの医療関係者も亡くなっていたようです。

けれども、彼らはどんな時代であっても、
けっして投げ出さず、諦めなかった。
その熱い思いが、この小説には溢れています。

ラスト、名代が本気で医療に関わる決意をします。

医者とは、病を癒し、ただ死の淵から引き戻すだけの仕事ではない。
病人の死に意味を与え、彼らの苦しみを、無念を、
後の世まで語り継ぐために、彼らは存在するのだ。


たとえどんな病が都を襲ったとしても、
自分たちは再びもがき、苦しみながら、
それに立ち向かうだろう。
人の醜さを、愚かしさを目のあたりにしながらも、
それでも生きることの意義と、
無数の死の向こうにある生の輝きを信じ続けるだろう。



何度も何度も、疫病に、飢饉に、災害に見舞われながら、
今の私たちが生きている。
それらは、過去のすべての人たちのおかげですね。



火定



奈良時代を舞台にした小説って珍しいんじゃないですか?
歴史物は苦手な私ですが、
『火定』は、名前や物などはその時代のものですが、
文体自体はひじょうに読みやすいです。
だから読めたとも言えるんですけど(笑)

人の恐れや弱味につけこむことを喜ぶ人もいれば、
自ら犠牲になることを恐れず人を助けにいく人もいる。

人間の良い面・悪い面の両方がきっちり描かれていました。

最終更新日 : 2020-11-25